2010年11月20日土曜日

【BOOK REVIEW】未来型サバイバル音楽論

未来型サバイバル音楽論 (著)津田 大介、 牧村 憲一



メディアジャーナリストでナタリーの取締役でもある津田氏と、細野晴臣や渋谷系アーティストなど数々のレーベルをプロデュースしてきた牧村氏が対談形式で、音楽業界の現在を見つめ未来をうらなっている。

本書の中で特に気になったのはCD流通に関わる話しだ。
アーティスト視点からの流通については以下の事例が興味深い。

全国ツアーで延べ6万人動員できるバンドがいたが、メジャー流通でCDを出しても1万5千枚しか売れなかった。
しかしメジャー流通をやめて会場限定でシングルを出したら3万枚売れたと言う。
音楽業界ではCDをリリースしても流通などでアーティスト印税は10%程度になり、さらにその権利を事務所に専属契約する事により売り渡してその分守ってもらう仕組みが一般的で、印税でアーティストが大きく儲けるというのは難しいのが現実である。
(これについては、
佐久間正英氏のインタビューが参考になる)
しかしライヴ会場やインターネットで直販すれば利益がまるまる自分達の儲けになるので、利益率が格段に違ってくる。
本書で津田氏は、本質的にはメジャー流通でCDを届ける手段自体がズレているのはないか、届けたい人にどう届けるかというところでミスマッチが起きているのではと指摘している。
この点については多くの音楽関係者が感じているであろうし、これから大きく変化するであろう点で今後の動向が気になるところだ。

また消費者視点からの流通の話しで興味深かったのは以下の会話だ。
津田氏が地方の方に、
「アマゾンなどネットショップの網が張り巡らされている今、わざわざ遠方のツタヤに行くこともないのではないか」
と質問したところ、
「津田さんは地方を分かっていない。地方には娯楽がない。CDを借りに行けば、返しにいかなければならないでしょう。そのようにショップまで足を運んで買物することが唯一と言っていい程の文化的なサイクルなのです。」
と切り返されたそうだ。
これはメディアで報じられていることとは逆で盲点である。

事実、日本におけるiTMSのシェアは2%以下(日本の音楽配信の9割弱が携帯電話によるもの)で、iTMSが普及しない理由は、日本にしかないCDレンタルビジネスが大きな理由だと言われている。
そもそもツタヤのCDレンタルは客寄せパンダ同然で、CDを安価でレンタルすることで老若男女に足を運んでもらい、メイン事業である会員登録を広げるのが目的となっている。
だから、日本のCDの定価は世界的に見て高いが、レンタルCDについては安過ぎてiTMSで購入するよりも絶対的にお得なのだ。

このようなレンタルビジネスの影響もあり、日本ではのPCでの音楽配信への移行は言われている程進んでいない。
また、音楽業界ではパッケージや配信も含め「買う」という行為や文化が希薄になってきているのかもしれない。

本書は現在の音楽文化や業界の潮流に関心の高い方は既知のことも多いだろうが、牧村氏の話しなどは普段メディアなどでは伝わってこない音楽業界の内側からの視点なので、貴重で非常に参考になった。

なお、本書で津田氏が説明しているCDの栄枯盛衰と著作権法については、以下の本で詳しく知ることができる。
>
Jポップとは何か






0 件のコメント: