2010年2月13日土曜日

【BOOK REVIEW】著作権の世紀

著作権の世紀 (著)福井健策



著者は、ジャーナリストの津田氏らとともに著作権に関する国の各審議会にも参加している、著作権法を専門とする弁護士である。
著作権の基本的な説明からネット時代における著作権の変遷を、主にコンテンツ産業を例に挙げながら、分かりやすく解説している。

音楽配信、映像配信、さらにはコンテンツ共有サービスやブログなど、著作権が制定された時代から一変した今、タイトルは大げさではない事が分かる。
時代が早すぎるためか、現在の著作権の各法律については定義が曖昧で明確に判断しずらい場合も多く、過去の裁判事例を参考にし、刻々と変わる法の境界線をアップデートする必要があり、過渡期であることがうかがえる。

本書で興味深かった事例の一つは「おふくろさん騒動」だ。
著作権管理団体のJASRACに申請してあれば、基本的には誰が「おふくろさん」を歌っても問題無いので、作詞家から歌うなと命じられるのはおかしい。
しかし、編曲権に関しては出版社、同一性保持権については著作者が保有しているため、歌詞を変えて歌う事が編曲だと認められ、著作者を毀損しているのであれば違法となる。
権利によって保有者がバラバラで、一つ一つの権利に照らし合わせなければならないので非常にややこしい。
ただ現在ブームになっているカヴァー楽曲について、ここまで厳密に権利許諾を取っているかと言うとそうではなく、JASRAC申請だけで終わっている場合が多いとのこと。
大御所や厳格な人には仁義を通すらしいが、売上に比例して各著作者にはJASRACから著作権収入が分配されるため、あまり問題にする人はいないようだ。
よって、法はあっても慣行としては成立しておらず、スキームが非常にグレーであり曖昧な事が分かる。

そしてもう一つ興味深いのは疑似著作権だ。
よく「オリンピック」「ワールドカップ」という言葉は使い方に気をつけた方が良いと聞く。
もちろん商標なので商品化するなど商用利用すれば違法になるが、これらの言葉は企業名や芸能人の名前と同じ扱いであり使用自体に違法性は無い。
このように、権利のようにふるまっているものは疑似著作権と言われ、情報を独占的にしてしまう弊害もあると言う。

また疑似著作権は肖像権でも度々問題になる事が多いらしい。
例えばペットや建物については基本的にはパブリシティ権は無いため、写真をWebに掲載しても違法ではないが、人同士の感情的なトラブルを避けるため回避する傾向があるらしい。
またアーティストのステージの写真についても、プライバシーの侵害には当たらないため、商用利用さえしなければ基本的には違法にはならないようだ。
ステージの写真撮影禁止はよく見る光景だが、これはステージ写真を商用利用されないためのリスクヘッジと疑似著作権が混じり合っているのだと思われる。

さらに本書では、度々話題になる補償金やDRMの問題、著作権保護期間延長について、そしてフェアユースやクリエイティブコモンズまで丁寧に解説されている。
著作権の潮流を捉える事のできる良書であり、非常に参考になった一冊。


0 件のコメント: