刑事と民事 (著)元榮太一郎
弁護士である著者が、民事、刑事、行政という3つの法的責任を切り口に法律の世界を紹介している。
法律に関する仕事をしていなければ分からない各法的責任の違いを、様々な事例を取り上げながら易しく説明しているので理解しやすく、日常に関する視野が一つ広くなるように感じる。
著者は、これから訪れる訴訟社会のためにも、一般の人も法律に対する意識を変える必要があると主張している。
司法試験の改革により10年も経たないうちに弁護士人口が2倍に膨れ上がる見込みがあり、総人口が減っていくなか弁護士が奪い合うパイも限られているので、仕事を得るために今まで裁判沙汰にならなかったような問題でも積極的に取り扱おうとする弁護士が増えるのではないかと予想している。
弁護士自らがトラブルや争いごとを見つけ、必要に応じて当事者に訴訟を起こすように勧めることもでてくるため、法的な争いごとに関わる一般人が増えるというのだ。
例えば弁護士の多いアメリカでは、交通事故や爆発事故が起きると、まるで救急車を追いかけてきたかのようなタイミングで被害者の搬送された病院に現れ、損害賠償請求訴訟の代理人になるべくその場で本人や家族から委任状を取り付けると言うからしたたかである。
そしてその際に相談する弁護士をきちんと選定できるリテラシーが必要になってくる。
弁護士は全ての法律に精通しているわけではなく、医師同様それぞれ得意分野・専門分野があるため、弁護士に相談する時には相手をよく選ぶことが必要だと指摘。
うっかり専門の違う弁護士を選ぶと、眼科医に外科手術を依頼することにもなりかねないというから恐ろしい。
一時期、医療機関のランキング本などが世間を賑わせ、今では医療機関に行くにもネットでクチコミを見る人が増えている。
既に簡単な法律相談や、弁護士検索、見積もりがとれる弁護士ドットコムというサイトもあるように、弁護士が身近になるということは、弁護士もよりサービス業として努力していかなければいけないということだろう。
ちなみに現在弁護士業界では「過払い金バブル」に沸いているというから興味深い。
最高裁判決でグレーゾーン金利が違法だと判断されたため、大勢の多重債務者が弁護士事務所に駆け込み、消費者金融から過払い金を取り戻してくれるよう依頼しているのだ。
消費者金融の大手が返還のために準備した引当金が約2兆円。
これが全て債務者に返還されれば、それを受けた弁護士には4,000〜6,000億円が入ることになるという。
約25,000人いる弁護士の中で、過払い金マーケットに手を出す弁護士は企業法務や刑事裁判専門の弁護士を除くと10,000〜15,000人となり、過払い金の処理だけで弁護士一人当たり3,000〜6,000万円もの収入が見込める計算になるそうだ。
最高裁の判決一夜にして、弁護士業界に巨大市場が生まれたというわけだ。
ただバブルはいずれ終わる。
同じ司法試験をパスしても、裁判官や検察とは異なり弁護士は民間であるから、一般企業同様にきちんとマーケティングを行わなければ倒産してしまう可能性もるだろう。
薬局に薬剤師が配置されているように、そのうち銀行や保険などの金融機関、結婚式場、葬儀屋、病院などに弁護士窓口などが設置される日も来るかもしれない。
2011年1月8日土曜日
【BOOK REVIEW】刑事と民事
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