2011年1月25日火曜日

音楽マーケット情勢の雑感 ②

最近出会った音楽マーケットに関連する記事から、今回は内的側面についての雑感をまとめてみる。

日本レコード協会が発表した2010年の音楽CDの生産額は前年比10%減の2220億3300万円で、前年割れは12年連続とのこと。
シングルCDの生産額は9%増の372億7800万円となったが、アルバムCDの落ち込みを補い切れなかったとしている。
その好調なシングルCDを牽引したのが、嵐やAKB48など特定の人気アイドルグループの作品だ。
そのことについて興味深い記事は下記の通り。

引用:
毎日.jp

人気アイドルグループ「AKB48」について、私は何の関心もない。しかし、「会いたかった」でおなじみのヒット曲は、商店街やスーパーなどどこにいっても耳にするし、テレビやラジオのCMでもよく流れている。今では自然にメロディーを口ずさんでしまうほどになってしまった▼興味関心がなくても、繰り返し耳にすることでいつの間にか頭に刷り込まれてしまうことが、何だか怖い。しかし、数年たてばすぐに忘れてもしまうのだろう。

引用:
Future Insight
このような現象を眺めてみると、このコンテンツを売るのが難しい時代にそれでもなおCDというオールドメディアを売ることができるのは、システマティックにユーザ内の熱量を高めていき濃いファンを作り、そこから波及する形でコミュニケーションとしてファンを拡大していくような方法論がみえてくる。Perfumeやモンスターハンターのような今年爆発したコンテンツを見てもにたような構図がみえてくる。

引用:
午後の蒐集
AKBの迷路に迷い込むと大変なことになる。AKBの実態は、ディープで濃く中毒性が極めて高い。
①テレビで興味を持つ
②売ってるCDを買う
③youtubeで旧譜PVに、はまる
④youtubeでライブ映像に、はまる
⑤youtubeで公演曲に、はまる
⑥公演に行きたくなる
⑦MIXを覚えたくなる
多くの人がまだ②と③をうろうろしている段階

昨年シングルCDが伸長した背景には、ジャケ写の違いや特典により、同じ人に何枚も買わせる販売戦略があった。
その賛否についてここでは触れないが、CDショップのチャート上位に入ることで「売れている」「人気がある」感じを醸成し、マスメディアでのヘビーローテーションと相まって、一般層を感化しているのは否めないだろう。
ただこれは以前からあった流れでもあり、メディアによる啓蒙や中毒性は、アイドルだけではなくK-POPやJ-POPアーティストにも共通するところだ。

さて、通常アーティストはCDのプロモーション活動としてメディアやイベントへ出演するため、そこで収益を得ようとはしない。
しかしシングルCDを牽引したアイドル達はそれとは様子が異なり、収益の核はCDではなく、グッズやコンサートでの収入、そしてテレビ番組や映画への出演によるタレント活動である。
ということは、CDが自身の活動のプロモーションツールということになる。
そこで興味深いのが下記の記事だ。

引用:
ITmedia News
OASは、アーティストがメールマガジンを通じて直接ファンに新曲の音源を無料配布する。メルマガを通じて口コミでファンを増やし、ライブの動員数やグッズ売り上げを伸ばすことで収益を得る計画だ。一定のファンが付けば、ファンクラブのような制度「プレミアム・サポーター」をスタート。ファンは月額数百円程度を支払うと、ライブへの招待といった特典を得られるようにする。
従来の音楽ビジネスはCDの売り上げをアーティストやレコード会社で分配するが、OASは「音源は無料」と割り切り、アーティストがファンとダイレクトにやり取りすることで「中間マージンを限界までカット」するのがポイントだ。

これはまさしくアイドルの活動に近い考え方で、ファンを囲い込み360°ビジネスをしていこうというもの。
確かにCDが売れず、また楽曲が海賊版などで出回る時代であれば、楽曲自体をプロモーションツールとすることも一つの選択肢だ。
実際、海外でもレディオヘッドなどが成功を収めるなど、音楽配信が浸透している国ほどその傾向は強い。

しかし、これは当分スタンダードにならないのではないかとにらんでいる。
もちろんレコードメーカーがそれを許さないというのもあるのだが、消費者心理の問題も大きいと考える。
何故なら音楽を無料にして情報化してしまうと、それに価値を感じなくなってまうからだ。
自身の好みで選んだ楽曲に対価を払うこと、それは対価を払って聴いた音楽だからこそ価値があるとも言える。

実際、アイドルもタレント活動で自身が商品であることを理解していても、音楽をやめることはない。
それは歌がファンとのつながりを強化しファン層を広げる求心力になっているからでもある。
だから収益の中心はコンサートやグッズの収入、もしくはタレント活動だとしても、その核にあるのは音楽であり、大前提としてそれが売れることを目指している。
ゆえにシングルCDで継続的なつながりを図るというのは理にかなっている。

またファンにとってもアーティストを支持することの現れはCDを購入することであり、チャートの上位に押し上げることがファンとしての使命でもある。
その上でファンは自己満足のために、写真集やDVD、カレンダーやTシャツなどグッズを購入する。

一方、音楽を生業とするミュージシャンのファンの場合は異なる。
ロイヤルティの表現方法は、チャート上位に押し上げることではなく、楽曲の良さや感動を人に伝えることにあるのではないだろうか。
そう考えるとアイドルはマスメディア向きであり、ミュージシャンはソーシャルメディア向きだとも言える。
ソーシャルメディアが台頭してくる今後は、心を震わせる曲や歌を奏でるミュージシャンとっては非常にチャンスである。
一部のレコードメーカーやアーティストは、ソーシャルメディアに対して嫌悪感や疎外感を持っているようだが、それは非常にリスクだということが分かる。

「音楽を買う=対価を払う」という行為はアーティストとファンの絆のためには必然であり、IT環境のみで音楽が無料化すると指摘するのはナンセンスだろう。
もちろん音楽の伝達メディアは変化しているので、CD以外のメディアで対価を得るスキームを考えなければならないし、宣伝費や間に入っている企業に中抜きされているマージンなどを減らし利益率を高めることも考えなければいけない。
そのためには規模の大小はありつつも、アーティストもリスナーから対価を得るための努力を必要とされているのではないだろうか。


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