企業スポーツの撤退と混迷する日本のスポーツ (編)杉山茂
本書では、日本のスポーツの現状と企業との関わり方について検証し今後の展望を探っている。
日本のスポーツは、野球、バレーボール、ラグビーなど、地域密着型を選択しプロ化になったサッカー以外は、ほとんど企業主体となっている。
先の冬季五輪でも注目されたが、選手は企業に所属しないと競技生活が継続できない環境にあり、日本のスポーツ育成において企業との関わりがいかに重要であるかが分かる。
そもそも企業スポーツの原点は、社員の人材育成や福利厚生のためだったり、会社の求心力や一体感を養うためであったが、企業の成長や時代とともにメディアに露出する事での宣伝効果の役割を担うようになり、勝つ事自体や商業的側面が目的となってきた経緯がある。
企業がスポーツを利用しているケースは日本よりも海外の方が顕著だ。
イングランドでは多くのサッカーチームで、資金の調達を目的に株式上場が行われた結果、他国の企業や富豪に買収されるケースが頻発している。
例えば、マンチェスター・ユナイテッドやリバプールはアメリカ、チェルシーはロシア、マンチェスターシティはアラブ首長国連邦がオーナーとなっているのだ。
ただ地域密着で成功している日本のJリーグも人ごとではない。
実は資金繰りが厳しく協会からの借入金で運営しているチームも多いのだ。
J1、J2ともに5チームずつが営業利益で赤字になっており、経済悪化によるスポンサーの撤退や放映権料の減少で今後さらに厳しくなる事が予想される。
このまま地域密着で生き残れるのか、海外の様に市場から資金を調達するのか、それとも協会含めた新しいビジネススキームをつくれるのか、今後の動向に注目である。
一方ラグビーでは、企業収益の悪化や意義の縮小もあり、近年幾つかのチームで勝利を目的にした外国人選手の獲得やプロ契約などの選手補強が難しくなってきた。
そうした中、企業は原点回帰として、仕事とスポーツを両立させ職場との一体感から社員の士気を高める方針を打ち出すのだが、もはや高いレベルでの競技生活や、専念できる環境を求める競技者意識が生まれてる選手とは大きな溝ができ相容れなくなってしまっており、結局のところ休部となってしまっている。
そこで、企業がスポーツに対する新しい価値の創出として現在模索されているのは、企業スポーツと社会との接点だ。
例えば、培ってきたノウハウを一般のスポーツ愛好者に対して教授、子供向けスポーツ教室やチャリティーイベントの開催、活動地域の活性化などであり、一般的にCSRと呼ばれるような内容だ。
これらはバレーボールやラグビーでは積極的に行われている。
スポーツビジネスとしての市場が小さく、持ちつ持たれつできた日本の企業と選手は、このような継続的努力が非常に重要になってくる。
スポーツの盛衰を市場に任せる考えも一理あるが、サッカーW杯やオリンピックで国民の活力が高まる通り、スポーツが人に与える影響は大きい。
国も、企業の成長とスポーツの振興、さらには社会貢献を密接に捉え、もっと突っ込んで検証することが必要なのかもしれない。
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