マイケル・ジャクソン (著)西寺郷太
デビューからTHIS IS ITまでの軌跡を、ジャクソン兄弟を含めた家族との歩み、少年虐待疑惑の検証、そして時代と音楽の変遷を軸に描いている。
ジャクソン兄弟のプロファイルや、活躍の裏にあったレーベルとの確執、そしてマイケルに与えた影響などは、当時の熱狂を知らない世代としては非常に興味深かった。
また本書では、普通の少年時代を過ごせなかったゆえに少年時代への回帰願望が強かったマイケルを、お金に群がる一部の大人やメディアが利用し、大きな誤解が生み出されてきたことを丁寧に解説している。
性的虐待を告発した少年は、幻覚剤の成分があり虚偽記憶を植え付けることのできる劇薬を実父に注射されていたことが分かっているし、その父親はマイケルに対して以前からゆすりと恐喝を繰り返していた。
少年はお金に群がる一部の大人に利用された可能性が高く、またメディアも商業的利用としてゴシップコンテンツを肥大化させていったのだ。
ちなみにマイケルの死後に、FBIは密かに収集していた情報を公開し、そこで少年虐待疑惑に係る証拠は無く、えん罪だったと認めているそうだ。
また時代の変化もマイケルには逆風だった。
80年代までミュージシャンとオーディエンスとは別世界であり、オーディエンスは創り上げられたアイドルに現実を忘れその姿に熱狂した。
しかし90年代に入り両者の境界線は次第に薄くなり、世の中は非ショービジネスムードが高まってくる。
そして等身大のメッセージを発信するヒップホップ、グランジ、オルタナティヴなどの音楽が流行しはじめ、ニルヴァーナやパールジャム、レッチリやベックなどが台頭してくる。
ニルヴァーナの登場により、マイケルは商業音楽の象徴として、軽蔑や嘲笑の対象に移り変わっていったのだという。
この時代と音楽の変遷における考察は非常に面白い。
マイケルの栄光を知らず、ゴシップによる偏見を持っている人こそ、是非手に取ってもらいたい本である。
0 件のコメント:
コメントを投稿