2009年11月21日土曜日

【BOOK REVIEW】M&A新世紀

M&A新世紀 (著)岩崎日出俊




現在の世界情勢を踏まえたM&Aの実態や考え方を分かりやすく解説している。
本書を読み終えると、国内経済ばかりに目を向けて気づきにくい「日本企業が世界から取り残されている」ということが浮き彫りになってくる。

世界経済を見回すと、企業価値の向上を目的として行われるM&Aはステークホルダーに対して有益に働いていることがわかる。
TOBの本質は、その企業のオーナーでもある既存株主がメリットを感じて賛成した結果、成立するからだ。
しかし日本では、「M&A」というと、過熱報道により一人歩きした「敵対買収」がまず最初に浮かぶため、あまり良いイメージは無い。

例えば、一時期話題になったスティールパートナーズによるブルドックソース買収計画は、メディアの報道からか世論はスティールパートナーズをお金至上主義のハゲタカだと敵対視した。
そのため、買収防衛策訴求時にブルドック経営陣は「スティールはブルドックの企業価値、株主の利益を毀損する」と主張し、世論を巻き込んだ買収防衛策を株主に訴え、結果スティールは排除された。
しかし、今となっては経営陣による事業計画のミスリードにより株価は低迷し、経営陣の方が株主を毀損した形になっている。
そもそも、ブルドック経営陣が効果的な経営を行えていなかったから、スティールは企業価値向上を目論みM&Aを仕掛けており、本来M&Aにより株主のメリットは高まるはずだったが、当時の株主は世論と経営陣の情に流されてしまったため大損してしまったのだ。

また、M&Aの失敗例としてはNTTドコモが挙げられている。
1999年〜2002年にかけて、なんと約1兆9,000億円を海外の携帯電話会社へ投資し、その後1兆6,000億円の評価損を出している。
これは日本で徴収されている消費税の約1/10、年間の携帯電話収入の約45%にあたる莫大な金額である。
NTTドコモのM&A戦略は、シナジーや経営参加による企業力向上が目的ではなく、自社の技術を世界に広めるために行われたもので、これこそ金で世界を取り込もうとしているハゲタカ行為である。
一般の企業だったら倒産している損失を計上しても、様々な面で国から守られているNTTドコモは悠然としている事にただ唖然とするばかりである。

本書を読んでいく中で懸念されるのは、日本企業の株式持ち合い制度で発生する企業努力の怠慢である。
旧来の日本企業は関係会社や銀行などで株式を持ち合っているため、グローバル企業に比べ、経営に対する株主からのプレッシャーや、M&Aにさらされる危機感が圧倒的に低い。
企業の拡大と存続を狙いM&Aが世界で繰り広げられている中、旧来の日本企業の世界的シェアや時価総額は相対的に下がっており、世界から取り残されてしまうのも時間の問題だと強く感じた。

本年話題になっているキリンとサントリーの統合も、世界の中で5%程度の規模しかない日本のビールメーカーが世界で戦える力が弱いこと、そして時価総額の低さから海外のビールメーカーや投資ファンドからのM&Aの危機にさらされ続けていることなどから、必然の選択だと著者は指摘している。
これは、世界の中で相対的に経済力が高く、日本で首位争いをしていれば世界で戦える水準に達していた時代は過ぎさったことを示唆している一例なのではないだろうか。


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