政権交代バブル (著)竹中平蔵
小泉政権で経済・金融政策、郵政民営化などを取り仕切った竹中氏が現在の民主党政治に警鐘を鳴らした本。
ただの民主党批判ではなく、民主党の優れた政策と課題項目をきちんと列挙し、課題項目については論理的に理由と今後の道筋を示した経済面での提案書になっている。
格差社会をつくったと喧伝されている小泉政権だが、実は小泉改革の経済成長により、1980年代から高齢化とグローバル化により拡大してきた格差スピードが緩和されている。
その期待成長率が高まり内需が拡大した小泉政権時代に比べ、現在は低価格商品・サービス競争が過当化し、市場規模が広がらないまま消費を奪い合っているだけの経済政策になっており、このままでは日本経済の成長が無いと著者は指摘している。
そして最も懸念しているのは、経済成長が無いまま再分配政策だけに突っ走ってしまうと、経済破綻もしくは低福祉・高負担の重税国家の道しか無くなってしまうということだ。
諸外国の事例として、フランスのミッテラン政権が興味深い。
社会主義色の濃いミッテラン大統領は、就任後に9つの企業、金融グループと銀行部門を国有化し、さらに最低賃金、家族手当、老齢年金の3つを引き上げを行い、一方で富裕税を新設した。
また労働時間の短縮と年次休暇の拡大によりワークシェアリングの実現を目論んだ。
これらは現在の民主党のマニフェストと似ている再分配政策である。
当時は深刻な世界不況で、各国が引締め政策を採る中にもかかわらず、公共支出を拡大した成長路線を描いたようだ。
しかし社会福祉にだけ目を向けたため、生産が拡大せず、また供給力の強化をしないまま再分配を重視した結果、低成長のまま失業率が上がり、物価も13.4%も上昇したインフレ状態となり、経常収支は260億フランの赤字で財政破綻状況に陥った。
その結果、財政改善のために社会主義政策から自由主義的経済政策へと転換せざるを得なくなり、結局は歳出削減の他に中間層の増税や公共料金の値上げなどが行われた。
この事実は、社会保障にお金を注ぎ込んでも経済は成長しないことを示唆している。
著者によれば、「資本」「労働」「技術」のいずれかのインプットが増えなければ、お歳暮やお中元を贈り合っているだけで全体のパイが広がらず、日本経済は成長しないという。
例えば「こども手当」も経済成長には貢献できないと言う事だ。
著者は、税収が40数兆円しかないにも係らず実現には5.5兆円が必要になること、出生率を高める具体的な施策が提示されていない事から、実態はバラマキだとも指摘している。
要するに社会福祉を重視した政策は、一時的に国民は喜ぶが、長期的な成長につながらず最終的には国民が苦しむはめになるということ。
現在日本は、所得再分配を強化する社会主義的な方向に向かっているが、その政策に是非を唱えるのは国民である。
国民も目先の手当に一喜一憂するのではなく、将来を見据えた政策を評価できるリテラシーをもつことが重要だということ。
そしてこのままでは、いずれ低福祉と重税に苦しむ事になることが予想されるので、国の社会保障に頼らない自己防衛策を今から考えておく必要がある。
論理的で分かりやすい解説は説得力があり、現政権を理解できる良書である。
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