2011年1月4日火曜日

【BOOK REVIEW】カラオケ秘史

カラオケ秘史 (著)烏賀陽弘道



Jポップとは何か」の著者が、丁寧な取材で今まで伝えられていなかったカラオケ産業の歴史について迫り、カラオケの裏側が非常によくまとめられている。

カラオケとは日本が生んだ一大産業と言っても過言ではない。
例えば、2007年の「CDを聴くのに使うお金」と「歌をうたうのに使うお金」の割合は1対2になっており、また、コンビニや家電量販店なども含めたCD販売店とCDレンタル店の総数でも1万店程度だが、カラオケを歌える施設は20万店以上にものぼるという。
これは、日本人にとって音楽を聴くよりも歌うマーケットの方が大きく、音楽を運ぶ最大のマスメディアとなっていることを示している。

本書では、そのカラオケ産業の礎を築いたカラオケ機器の発明者、ビジネスモデルの考案者、普及の立役者、そして一大産業に起爆させた通信カラオケの開発者など、様々なパイオニアに直接取材をし当時の状況が描かれている。
上辺の考察ではなく、パイオニア達のアツい思いや熱量が伝わってくるのが本書の素晴らしいところだ。

その中でも特に気になったのが、通信カラオケシステムの開発者であるエクシングの安友氏だ。
会社に内緒でプロジェクトを進めたり、予算を会社の意向とは別のプロジェクトにつぎこんだりと、新しいことを開発する意欲と、やり遂げるパワーは凄まじく痛快でもある。
エクシングはミシンメーカーのブラザー工業がカラオケ事業用に立ち上げた子会社で、ブラザー工業が家庭用ミシンの陰りから新しい事業の展開を積極的に推進していたからこそ、会社員として破天荒な安友氏を許せたのであろう。
安友氏の生き様は、何のために働いているのかと言う仕事の原点を見せつけられた気がした。

また本書で最も驚いたことは、現在の通信カラオケの音楽の全ては、人が耳コピして手作業でデータにしているということ。
制作会社から歌入りの楽曲を受け取った音感のある元ミュージシャンやスタジオミュージシャンなどが、数十トラックある各楽器の音を拾ってデータに変換し制作会社に納品する。ギャラは1曲4〜5万円のようだ。
カラオケがCD販売に寄与していることは間違いないのに、レコードメーカーによる音データや楽譜の提供は一切無いというのが、保守的な音楽業界を表している。
もしかしたら音楽業界が当初からカラオケと協業できていれば、倍以上あるカラオケ市場を巻き込んだ新しいビジネススキームも構築できたかもしれない。
デジタル化で過渡期を迎えている音楽業界も出版業界も、権利や体制を守ることだけに固執しすぎては、発展が期待できないという危惧を感じさせる1シーンでもあった。


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