2008年12月17日水曜日

CSRにおけるコーズと企業利益の両立②

前回のエントリーでは、CSRには6つのアプローチ方法があること、そしてコーズと企業利益の両立にはジレンマが発生してしまう事を述べた。

そして、コーズと企業利益のジレンマを解消し両立を目指すために、CSR活動のアウトカムの提示=“見える化”を提案した。

では今回は、コーズが企業利益に貢献していることを“見える化”するためのツールを具体的に検証してみたい。

CSRでの企業利益は主にブランディング面への貢献となるため、ブランド価値への寄与を図る事が重要になってくる。
そこでツールとして活用できそうなのはブランド価値評価法だ。
現在ブランド価値評価法は①質問調査法、②財務データ法、③複合法、の3つに大きく分けられる。

①質問調査法
顧客や従業員といった対象企業に関わるステークホルダーに質問調査を行い、それらを点数付けし、数値化することでブランド価値として算出する方法。
新聞や雑誌、WEBなどで発表される調査によく見られる手法だ。

②財務データ法
企業の公開している企業情報に含まれる財務データをもとに、対象企業のブランド価値に関連のある指標を理論に沿って解析し、ブランド価値を算出する方法。
経済産業省によるモデルが代表的である。

③複合法
質問調査法と財務データ法を複合して数値化を行う手法であり、一橋大学の伊藤邦雄教授が日本経済社と共同で開発したCBV(コーポレートブランド・バリュエーター)が有名。

●CBV(コーポレートブランド・バリュエーター)モデルの概観
CB(コーポレートブランド)価値は、企業が自らのブランド力を源泉として、将来得られるキャッシュフローを現在価値に置き換えたもので、CB価値を算出するために使った計算式の体系をCBVとした。
そしてCBVモデルは、「優良顧客、従業員、株主をどれだけ多くかる長期間にわたってひきつけ、つなぎとめることができるか」を示す「CBスコア」、「コーポレートブランドをキャッシュフローに転換する力」である「CB活用力」、「キャッシュフローに転換する事業機会」である「CB活用機会」などのスコアから構成され算出されるとしている。
CBVの全体図を示したのが下図「コーポレートブランド価値ツリー(出典:日本経済新聞社 新聞広告ガイド)」である。
「CBスコア」は顧客、従業員、株主という3つのステークホルダーのスコアからなり、各スコアは、これまでのブランド理論で重視されてきた「プレミアム」「認知」「忠誠度」という3つの軸をそれぞれ指標とし算出する。
しかしCBスコアは業界内の相対的なブランド力を象徴する指標であり、その活用方法がCB価値に大きく影響するため、「CB活用力」にて、CBスコアを最大限に生かしCB価値につなげる必要がある。
さらにCBをキャッシュフローに転換する事業機会が業界ごとに異なるため、「CB活用機会」を考慮する必要がある。
CBスコアはCBの力あるいは競争優位性を示すことから、CBアドバンテージ(優位性)と呼ぶこともできる。
一方、CB活用力あるいはCB活用機会はCBの力・優位性をテコに、キャッシュフローを創造する企業の力、あるいは事業機会を示し、レバレッジ(倍数)といえる。
これらの要素を総合しCBVでは、両者をあわせて実施する事で、CB価値算出の精度を高めている。


●経済産業省モデルの概観
経済産業省モデル"経済産業省ブランド価値評価研究会が発表した「ブランド価値研究会報告書」で考案されたモデルで、客観性と比較可能性が担保された財務データのみを用いていることが最大の特徴だ。
CBとプロダクトブランドを一体と捉えて総合的に価値を算出しており、ブランドに起因して生じる期待キャッシュフローをリスクフリーレートで割り引くことによってブランド価値を現在価値で算出している。
モデルの構築にあたり、価格優位性、ロイヤリティの高い顧客の存在、ブランドの地理的及び異業種拡張力の三つの要因を抽出し、ブランド価値の構成要素として位置付けこれらの三つの要素はそれぞれ、PD(プレステージ・ドライバー)、LD(ロイヤルティー・ドライバー)、ED(エクスパンジョンドライバー)とされている。
PDにより、将来のキャッシュ・イン・フローのうちブランドに起因する部分を測定し、LDを乗じることによりキャッシュ・イン・フローのうち安定して確実に獲得できる額を導き出し、さらにを乗じることによってブランド拡張による将来のキャッシュ・イン・フローの期待性を織り込み、下式(出典:ブランド価値評価研究会報告書)で表現されている。


上述の既存ブランド価値評価モデルをベースに、CSRにおける変数を加えて既存モデルの修正とリモデリングをすれば、“見える化”されるはずである。
ただCSRにおける変数を導き出すには、インタビューアンケートなど質的なデータ収集が必要になってくるため、非常に時間を要する作業になってくるだろう。

以上がCSR活動のアウトカムの提示=“見える化”への提言である。
最終回③では、“見える化”によって今後期待される成果について考えてみたい。


(参考資料)
【著】有吉秀樹


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