2010年3月8日月曜日

宝島社にみる実践的マーケティング


数年前、女性誌と言えば赤文字系が爆発的に売れ時代の寵児だった。
特にCanCamは、エビちゃんの着た服が即完売したり、編集者が情熱大陸に取り上げられるなど代表的な存在だった。
しかし赤文字系女性誌の発行部数は今や激減し、CanCamにいたってはピーク時の約4割減となっている。

その赤文字系雑誌に代わり台頭しているのが、付録付きのストリート系雑誌だ。
なかでも特に売れているのが宝島社の「スウィート」である。
今年の1月号は105万部印刷の内97万部を販売し、脅威の消化率92%。
広告ページはこの1年で倍増したそうだ。
さらに宝島社は「スウィート」以外にも「インレッド」「スプリング」など各誌で販売伸び率は大きく伸張しているという。


記事を見ると、下降路線にあった宝島社が回復している裏には綿密なマーケティングがあるのが分かる。
それは学者やコンサルタントによる理論的展開ではなく、経営者と現場が一体となった実践的マーケティングである。

宝島社は明確なミッション「一番誌戦略」を掲げ、マーケティング会議が月1回、1誌ごとに開かれるという。
メンバーは関連部署の責任者の加え社長も同席するため決裁が速やかで、すぐに現場が動けるシステムになっている。
そして、価格弾力性をシミュレーションし値下げを行った結果、販売部数を3倍に伸ばすなど、「数字」を見ながらロジカルに取り組まれている事が分かる。

また編集部では、誌面作りは当然のこと、付加価値の最大ポイントである付録においても大きなこだわりを見せている。
ちなみに男性は周囲と同じ物を持つことに抵抗感があり、あまり付録に興味を示さないが、女性は機能性やファッション性が高ければ他人と被っていてもあまり気にせず、魅力に感じるようだ。
さてその付録だが、1回限りではなく恒常的に提供することで、海外生産にしてコストを下げており、編集者自身がロンドンまでサンプルを見に行き、中国の工場まで行くという徹底ぶり。
またマーケティング会議により戦略性が増したことで、数ヶ月先の部数目標や付録制作が立案できるため、製作期間の掛かるクオリティの高い商品や大量生産も実現できているそうだ。

そして最も興味深いのは、CDを出版流通で初めて販売したこと。
メジャーアーティストである「くるりとユーミン」のブックレット付きCDを発売1週間で4万部売ったそうだ。
出版流通を使えば、全国15,000店以上の書店、4万店超のコンビニへ配本できる。
これは音楽流通に比べてケタ違いに多く、今後大きな可能性を秘めていると言える。
宝島社の蓮見社長は「出版流通は最も効率がいい日本最大の流通組織。出版社が出版流通を有効活用すれば、まだまだ出版社は成長できる」としている。

このように、「編集方針」「付録の追求」「マーケティングの4P戦略」「広告営業」などにおいて、社長を中心に、編集部、広告部、販売(営業)部などの関連部署が、一体化した社内システムで動いているのが分かる。
頭でっかちのマーケティング戦略でもなく、各部署のしがらみや利益を優先するのでもない。
ゴールを明確にし各部が建設的に取り組む事で、自らのやるべき事を追求でき、結果につながっているのだと思う。
この取り組みは、閉塞感漂う業界や業績が伸びず悩んでいる企業にとって、非常に参考になる良い事例なのではないだろうか。



0 件のコメント: