2010年2月14日日曜日

【BOOK REVIEW】FREE

FREE (著)クリス・アンダーソン



著者は世界的ベストセラー「ロングテール」を提唱したクリス・アンダーソンである。
本書は、デジタルは「無料」になる宿命にあるとし、無料からお金を生み出す戦略をケーススタディを交えながら提唱している。
なお、ここで登場する「無料」は、bitとatomの違い、限界費用「0」といったポイントを前提とする必要がある。

本書に登場する音楽産業と「無料」の歴史は興味深い。
そもそも音楽家は生演奏する事で報酬を得ていたが、ラジオの登場により音楽は「無料」で聴けるコンテンツになってしまう。
ラジオ登場以前のビジネスモデルで利益を得ていた一部の人達は、ラジオ局に対し数々の訴訟を起こし、音楽ビジネスは崩壊すると予言した。
しかし音楽ビジネスは崩壊しなかった。
音楽家は自身の曲や演奏を多くの人に聴いてもらえる事に喜び、また低品質の無料音源が広まる事が、レコードやCDなど音質の良い有料音源を販売するためのマーケティング手法となったからだ。
そして今、音楽レーベルが反対している「無料」の音楽配信が、コンサートビジネスを成長させるためのマーケティング手法になりつつあり、歴史が繰り返されている。

元々は、音楽・本・映像など様々なコンテンツの制作者は、収入よりも先に、多くの人に自身の制作物を実感してもらいたいと思ってスタートしている場合が多いだろう。
しかし、その制作物がお金に換わると知っている周囲のビジネスマン達の多くは、既得権益を壊されたくないため「無料」と戦うことになる。
著作権を盾に反撃している節があるが、著作権とビジネスは別物であり、ビジネスモデルは変えられるはずである。
本書にあるように、今後は「無料」によって得た評判や注目をどのように金銭に変えるかを創造しなければならないのだろう。

またこの手の問題で何かと話題になる中国での「無料」への対処はユニークだ。
既に音楽市場は不正コピーに支配されているため、若いミュージシャンは不正コピー業者と戦うのではなく、自身の作品を潜在的ファンに「無料」で届ける事のできるマーケティング手法だと考えているそうだ。
「無料」により多くの人に注目され、そこからビジネスに転じるのだが、そのビジネスの創造性は我々の既成概念に及ばず斬新である。

著者の提唱は現在のWebの潮流から正論に思われるが、全ての企業やデジタルコンテンツに当てはまるかと言うと疑問も残る。
規模の経済性が働かなければ限界費用も「0」に近づかないし、「無料」で質の高いコンテンツでも多くは日の目を見ることは無いだろうから、資金力やマーケティング力によって格差が広がる可能性も示唆できる。
しかし今現在、Webマーケティングの前提において、本書は重要な参考書になると思われる。


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