2011年2月5日土曜日

【BOOK REVIEW】グループアイドル進化論

グループアイドル進化論 (著)岡島紳士 岡田康宏



アイドルの変遷を辿りながら、現在のアイドル戦国時代への進化について解説している。
本書で説明されているアイドルの変遷はこうだ。

1980年代後半に歌番組が衰退した後、ソロアイドルの主流は、1990年代は「宮沢りえ」「牧瀬里穂」「観月ありさ」「広末涼子」などCM美少女へ、さらに2000年代は「宮﨑あおい」「蒼井優」「新垣結衣」「長澤まさみ」など映画女優へと移行していく。
現在のソロアイドルはファッション誌モデルとして同世代から支持を集め、映画という露出をおさえた高嶺の花としての存在価値を高めているという。

一方グループアイドルの活躍の場は、1980年代後半からは「おニャン子クラブ」「加藤紀子、菅野美穂、中谷美紀などが在籍した桜っ子クラブ」「永作博美が在籍したribbon」などバラエティ番組へ、1990年代後半は「モーニング娘。」「SPEED」など歌番組へ、2000年代以降は「Perfume」「AKB48」などライブ会場へと移行していく。

これらからソロアイドルとグループアイドルで大きく路線が異なっていることが分かり興味深い。
その中でも本書ではグループアイドルについて考察されている。

読み取れることはやはり「AKB48」が会いにいけるアイドルとして、これまでのアイドル事情を一変させたということ。
今までテレビやコンサート会場でしか見ることのできなかったアイドルを、劇場で毎日見ることができ、イベントで握手も会話もできてしまうことで、アイドルとファンはフラットな関係になり距離が破壊された。
またスタッフもファンに近く、ファンから意見を聞き要望を吸い上げる。
投票企画にしてもそうだがファンが作り手側の気持ちになるということは今までに無かったことだ。

しかし、アイドルに憧れるファンという構図が、ファンを大切にするアイドルという構図に変わったことで、様々な弊害も出てきているようだ。
ファンがアイドルに大切にされるということが当然になり、「握手会の時に態度が悪かった」「ブログが更新されなかった」などと文句を言うファンも出てきているという。

多彩なキャラクターを用意して多様なニーズに対応した「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」がアイドルの成長物語を付加させたとすれば、「AKB48」をはじめとするライブ系アイドルの現場では、ファンとアイドルとの間に一対一の関係性が成り立ち、パーソナライズされた2人だけの物語がファンの数だけ生まれている、と著者も分析している。

今のアイドルは、「歌がうまい」「カワイイ」「個性的」だけではなく、コミュニケーション能力が無いと成り立たないのかもしれない。
時代の流れとともにアイドルもマスからソーシャルな関係になってきているのかもしれない。

また本書では秋元氏の試合巧者ぶりがうかがえる。
「AKB48」メンバーを様々な事務所に所属させ、ユニットも別々のレコードメーカーから発売したり、またテレビや雑誌も複数社と取引する。
芸能につながる関係各所にネットワークを張り巡らせることで、足を引っ張る敵を最小限にし、スキャンダルについてもコントロールできるようにしているというのだ。

ちなみに本書には掲載されていないが、マスメディアへの露出や芸能活動については、日本音楽事業者協会系(芸能プロダクション)か音楽制作者連盟系(音楽プロダクション)の所属の違いで大きく異なるともいう。
例えば、「AKB48」のメンバーは日本音楽事業者協会で、ハロプロは音楽制作者連盟の所属になる。
テレビや雑誌などのマスメディアは、多くのタレントを抱えている芸能プロダクションには逆らえないと想像されるからだ。

また著者は、秋元氏による「おニャン子クラブ」が、アイドルの敷居を下げアイドルの幻想を破壊したと指摘。
一時的には大きな盛り上がりを生んだが、ブームとしての消費によって、アイドルがダサいもの、かっこ悪いものになったという。
これは「AKB48」によるアイドルとファンの距離感の破壊も同じことがいえるだろう。
たしかに長期的な文化を作り上げているというよりは、刹那的なブームをつくり出しているように思えるが、それを破壊と言うか時代にマッチした展開というのかは後にならないと分からないだろう。


0 件のコメント: