2010年10月31日日曜日

【BOOK REVIEW】昭和45年11月25日

昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃 (著)中川右介




この本では、三島由紀夫の生い立ちや思想、スキャンダル、作家活動を検証・考察しているわけではない。
三島由紀夫が自衛隊に乗りみ自決した昭和45年11月25日の当日、三島由紀夫と関係のあったもしくは後に影響を受けた、文壇、演劇・映画界、政界、マスコミ100以上の人々の言動の記録を時系列でまとめただけである。
しかし三島由紀夫についての本が数多く出版されている中、違った角度で当時のリアルな動揺や心の有り様を感じとる事ができる。
当時を知らない世代にとっては概観をつかむのに非常に適している。

自衛隊の駐屯地に乗り込み割腹し刀で介錯され、頭と胴が離れ自決していった三島由紀夫の行動は常軌を逸しているが、亡くなったのは三島由紀夫とその仲間の2名だけだし、クーデターといっても彼らに賛同する自衛隊員らは誰もいなかった。
たった数十分の出来事だったのだ。
それでもこの事件は世間に大きな衝撃を与え、昭和史に残る事件になった。
それは何故なのだろうか。
様々な論考がある中、本書には事件に対する興奮、驚愕、絶望、失望、感嘆、悲嘆、絶叫、唖然、愕然、反発、嫌悪、嘲笑など様々な反応が記されており、その何故を紐解くきっかけになっている。

本書の一節に当時の防衛庁の様子が記されている。
当時防衛庁では事務次官の送別パーティーが開かれており、広報担当者は下記の様に語っている。
「お別れパーティーは前々から決まっていたことなんですよ。“三島事件”のほうはまったくのハプニングですからね。あんなハプニングに左右されることは全然ないと思います」
「自衛隊の受止め方を一言でいえば、向こうが勝手に入ってきて、こちらは迷惑を受けた。これに尽きるでしょうね。」
この危機感の無さは現代でも変わらない気もするが、世間やマスコミとの温度差がすごすぎることに驚く。

あとがきで著者は、本事件は広義の演劇だったという解釈もあるのではないかとしている。
全国民を観客にさせた一世一代の大芝居だったのだと。
そしてそれは、テレビで「作家の三島由紀夫氏」から「三島」と呼び捨てになり、新聞で三島由紀夫の首が床にならんでいるのを掲載したり、書店ではここぞとばかりに本を売り捌いたりすることができた1970年代だからできたのだと。
事件の起きた歌手のCDは回収され、サッカーをした力士が謹慎を受け、世間体やスポンサーばかり気にして報道が行われている今の世の中では、このような芝居は打てないだろうとまとめている。

事件からちょうど40年。
大きな変化を感じる一冊でもある。



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