医薬品クライシス (著)佐藤健太郎
元医薬品メーカーの研究職に就いていた著者が、医薬品の成り立ちや市場動向、今後の展望などを、体験を踏まえ記した本。
医薬品そのものや業界については今まで関心の無かった分野だったので非常に新鮮に感じた。
医師の処方箋が必要な医薬品は、一般薬や大衆薬に比べ桁違いの売上をもたらす。
1つの医薬品で売上が年間1兆6,000億円に達する物もあると言い、これはアサヒビールの年間売上高より大きい数字になる。
その医薬品を創るためには総売上の20%程度の研究費がつぎ込まれるそうだが、創薬のプロジェクトは通常15年位の期間を要し、全世界で年間に生まれる新製品は15〜20製品程度とのこと。
そして研究者は一生働いても創薬に携われる人の方が少ないと言うのだから、創薬の難しさに加えギャンブル性の高さがうかがえる。
また著者は薬は病気を治すものではないとしている。
医薬品の本質は、調整能力によって決定的な破綻を防ぎ、自然治癒能力による回復を待つことで、根治を目指すものではなく基本的には対症療法であるという。
これは、数十個の原子でできているという医薬品の仕組みを本書で理解すれば納得できる。
そして医薬品の成り立ちから副作用が無くならないことも分かる。
一方エイズ治療薬のように、副作用を抱えながらも進歩している医薬品も多い。
今やHIVに感染しても薬の力で増殖を抑え発症を避ける事ができ、服用の仕方にさえ気をつければ天寿を全うする事も十分可能なようだ。
さらに興味深いのは、医薬品価格は公定価格として国が取り決め、メーカーには決定権が無く、その多くは税金や健康保険から支払われているということ。
また、医薬品の構造は20年は特許で保護されているが、期間が過ぎれば他社も同じような薬品を製造し販売する事ができるため、特許切れはメーカーにとっては死活問題で、年間数億円の売上が無くなってしまうということ。
このような特許切れで先発品を真似た後発品のジェネリック薬品は、研究費を抑えられるため低価格で販売する事ができる。
これは先発品を開発したメーカーにとっては腹立たしいが、消費者や健康保険を負担している国(厚労省)にとっては望ましい。
その中、厚労省は予算の関係上医療費値下げを狙っているため、今後はジェネリク薬品が広まっていく事が予想される。
医者や医療機関に比べあまり注目されないが、特許の問題、業界の再編、それに伴う研究者のリストラなど、医薬品メーカーは様々な問題を抱えていることが本書で読み取れる。
医薬品は人類の生死に大きく関与しているため、メーカーの経営も、一般企業のそれとは異なる。
だからこそ、メーカーや国が保有している情報は国民に広く開示し、情報格差を少なくする事が重要だと思われる。
その一つとして、本書は有益な一冊となっている。
ちなみに、下記ブログでは薬剤師についての現況について書かれている。
非常に興味深いので、本書と併せて一読を。
「なぜ薬剤師でなければ医薬品を取り扱ってはいけないのか」
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