2009年11月5日木曜日

音楽市場の再編を考えてみる。

「市場が縮む音楽業界」再編は加速

音楽レーベル「ビクターエンタテインメント」が売却されるという先日のニュースには驚きつつも、現在のパッケージ市場を考慮すると妙に納得してしまった。

日本では、ビクター以外にも、ソニー、東芝など、電機メーカーを冠にした音楽メーカーが連立していた。
技術革新により世界をリードした日本の電機メーカー各社は、資金体力のある時に様々な事業を立ち上げたからだ。
製品にプロダクトサイクルがあるように、事業もいずれは衰退する可能性があるのだから、事業を多角化することでリスクヘッジすることは当然の流れである。
また音楽事業が企業の文化的側面を担うことで、ステークホルダーに対してのロイヤルティ向上にも寄与していた。
しかし時代は移り変わり、サムスンを始めとする他国電機メーカーの著しい伸張による本業の伸び悩み、技術革新とライフスタイルの変化による音楽事業の負債化で、企業経営が難しくなってきたのである。

その時に企業として迫られる選択は、
①限りあるリソースを本業に集中させる
②合併や買収により多角的な事業を展開する
の2つになる。

今回ビクターは経営判断として前者を選び、音楽事業の売却に至った。
逆に今回買収に手を挙げているコナミは、スポーツクラブ運営の事業に乗り出すなど、積極的に②を選んでいる。
特に音楽事業に関しては、本業であるゲームやオンラインビジネスとの相性が高く、新しい収益事業として狙っていたのかもしれない。

しかし数年前の東芝に続く再編だけに他のメーカーも懸念されるが、ユニバーサルやワーナー、avexなどは根本的に音楽事業が主体であるから、東芝やビクターとは大きく異なる。
またソニーについても音楽事業がグローバル化しているのでユニバーサルやワーナーに近い。
だからレコードメーカーの再編がすぐに起こることは考えづらい。

ただその企業も多くの課題を抱えているのは同じだ。
だからこそ、国内で音楽事業のみに特化していたavexは、パッケージ製作という「コンテナ」事業から、マネージメントという「コンテンツ」事業への移行、コンテンツホルダーとしてのビジネススキームの新しい取り組み、アジア進出による商圏の拡大など、次のビジネスへ転換をしている。

一方、音楽業界の再編を考える際に忘れてはいけないのが小売店である。
現在のパッケージ市場の収縮で最もダメージを蓄積していると思われるからだ。
CDは再販制度や商品特性からも他の小売と経営的なシナジーを生む可能性は低そうだ。

そこで考えられるのが、以下の2つの流れである。

①CD小売同士で合併
これは、規模の経済性を高め、売り手に対して影響力を大きくすることで優位に立つことができる。
音楽流通はコンテンツホルダー側に優位性があるが、販売シェアを高めることで、コストの交渉が可能になる。
また1店舗あたりの面積を小さくしながらもタッチポイントを増やすことができるので、オペレーションの効率化による収益の拡大が見込まれる。

②メーカーとの合併
イオンやユニクロなどの大手小売のように垂直統合型の経営にすることで小売マーケティング情報を活かしたプライベートブランドの制作ができる。
消費者のニーズや動向をより商品に反映させることで、効果的な販売が行える。
また楽曲権利などを活用することができるので、イベントや配信なども絡めた立体的なプロモーション活動が可能になる。

マーケティングの4Pで言うと、①はPlaceとPrice、②はProductとPromotion面を強化することができるわけだ。
新星堂は一度TSUTAYAと資本提携したが、シナジーを生み出せず提携を解消し、HMVを買収した大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツ株式会社に買収されることになった。
よって現在は新星堂とHMVの株主兼経営は大和証券で同一である。
そして、本日HMV渋谷店とHMV ONLINEはリニューアルされ、新星堂の楽器屋「ROCK INN」が入り、シナジー効果を狙った展開がスタートした。
これは①の具体的な展開例である。

最後になるが、実際には音楽産業自体の市場は衰退しておらず、夏フェス等の大型イベントや、アーティストグッズの販売、着うた等のコンテンツ販売が、パッケージの収縮を補っている。
これはレコードがCDへ、ビデオテープがDVDへ変化したような、メディアの変遷ではなく、ライフスタイルそのものが変化していることがうかがえる。

そもそも、今ある音楽流通のシステムは商用化された近代ビジネスモデルなわけで、音楽を広く深く伝える手段のゴールではないと個人的には思っている。
経済のシステムとして再編が起ころうとも、音楽の「伝え方」「伝える物」「伝える場所」「伝えるタイミング」などが変化していくことは市場の原理であり、リスナーである消費者がより望むべき方向へ進んでいるはずと考えたい


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