2009年4月19日日曜日

【BOOK REVIEW】日本の食と農

日本の食と農 (著)神門善久



現在、食問題や環境問題への問題意識が高まり、農業への回帰が望まれている傾向がある。
そして、企業や個人で農業に参入しようというする動きが各所で見られるようになった。
その潮流にある中で、是非とも読んでおきたい一冊。

本書では行政やメディアで叫ばれていることと真実は大きく異なる事に気づかされる。
例えば、政治家と行政とJAが一体化していることにより、農業への新規参入や農家の競争が阻害されていることが挙げられる。
農家は農林族と言われる政治家の大切な組織票である。
だからJAの目標は政治家のための票田として政治力を維持する事であり、地域の農家をどんぐりの背比べ状態にしてしまう。
何故なら、大規模農家が生まれ零細農家が廃業してしまうと、組織の票数が減ってしまうからだ。
だから一部の政治力維持のために農家には競争が生まれず、いわゆる護送船団方式になってしまう。
また独立志向の農家だとしても、JAが農業に関する流通や金融チャネルを押さえてしまっているためJAを頼らざるをえなく、独り立ちして新しいマーケットを生み出す事ができないのだ。

また多くの農家では、行政や企業が土地を買い上げる「農地転用」が最大の収益になっているため、農業を本気で志向する者達に土地を貸さず眠らせている場合が多いと言う。
海外の農家から言わせると、日本の環境で農家が儲からないのはおかしいと言う。
その儲からない理由の一つは、平坦で水を引きやすく環境の良い優良農地はショッピングセンターや宅地化などへの転用で高額で買い取ってもらえるため、農地を純粋に耕作目的で使わないことが多いからなのだ。
次第に立地環境の悪い農地ばかりが残ってしまい農業効率を悪化させてしまうのだ。

メディアは行政の制度ばかりを悪として糾弾するが、実は農家自身も公共事業やゴルフ場、ショッピングセンター建設など高値で農地を買ってくれる事案を政治家と結託し呼び込むことを期待しているのだ。
世間では環境破壊とか叫ばれながら、田畑がゴルフ場になるのも土地を買われる農家達は高額で土地が買われて喜んでいるということ。
そして、そこで発生したお金は農民の財布・金庫として役割を担っているJAに振り込まれ、JAも潤うという循環になっているのだ。

このように、農業と言う業界は他国や他業界と比較するとマーケットが確立しておらず、社会主義的な体制で今まで続いてきていると言えよう。
「農業は辛い」「農業は儲らない」「若者の農業離れが多い」などと言うのは建前で、行政やJA、そして農家も含め自己利益を必死に守ってきただけの怠慢な結果。
他の業界に比べ、まるっきり努力していないのだ。

日本の食の危機の本質には農業と疎遠な私達に知られざる真実が隠されているのである。
本書は、日本の食と農が未来に向けて発展するために、真実に目を背けず新しい息吹を吹き込もうとしている名著である。


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