2015年8月20日木曜日

【BOOK MEMO】鈴木さんにも分かるネットの未来

鈴木さんにも分かるネットの未来 (著)川上 量生


インターネットの現状の課題と未来の展望を丁寧に解説している良書。
自身が日々漠然と感じていた事がロジカルに言葉としてまとめられていたので、共感できるとともに頭の中が一つ一つ整理されていった。
プラットフォームやコンテンツでネットビジネスを展開している方におすすめしたい一冊。

特にメモとして残したいポイントを本書より抜粋。

“既存のビジネスがネットに移行する場合には、付加価値がつくというよりも、ネットを利用したという名目による価格のディスカウントだけが武器になる場合が多いので、特に現在のビジネスがうまくいっていればいるほど、ネットにビジネスの主軸が移ったぶんだけ、市場規模と利益がむしろ減る傾向にあるんです。したがって、ネットで儲けるというテーマ設定自体がそもそも難しいのです。”

“コンテンツの複製コストがゼロであるなら、原価がゼロということだから、価格はゼロに近づくという理屈は、要するに価格競争がコンテンツ市場で成立するということを前提としています。コンテンツの価格は市場原理によって決まるのでしょうか?それはある意味正しいのですが、間違っている理解です。なぜなら、コンテンツはひとうひとつがユニークであり、基本的には同じものは存在しない独占商品であるという側面も持っているからです。
コンテンツを無料でもいいから配布することでプロモーションをするという戦略は、まずコンテンツへの依存をつくるという意味では正しいのです。コンテンツを利用していない段階では、まだそのコンテンツのある生活に依存していないのですから、無料という価格が適切になりえます。そしてコンテンツにある程度、依存し始めた状態で課金をすれば、今度はお金を払ってくれる確率が高くなります。言い方は悪いですが、コンテンツビジネスというのは、人間をある種の中毒みたいな状態にすることでお金を払ってもらえるようにするという構造があるのです。
コンテンツの価格は人間が持つそのコンテンツへの依存度で決まるというのが、僕の主張です。ですからコンテンツの価格の下限が複製コストで決まるのは確かとしても、実際の価格に複製コストはあまり関係しません。”

“インターネット業界のほうでよく電子書籍の価格を安くすれば普及するんだと出版業界を非難する人がいますが、安くしなければ普及しないようなものを新しい時代のメディアだと主張するのはどうかしていると思います。長期的にはコストの安いデジタルコンテンツの価格が競争の結果として低下することはあっても、まだ普及していない段階で、デジタルコンテンツというプラットフォームが普及するためのコストを払うべきなのはプラットフォームを握っているインターネット業界側であって、コンテンツ側に低価格戦略を無理強いすることでプラットフォーム普及のための宣伝費を肩代わりさせるような理屈はおかしいのです。”

“ネットでデジタルコンテンツの価格を安くせざるをえないのは、やはり違法コピーの存在でユーザーが持っているいるコンテンツの価格の相場観というのが崩れてしまったことが原因なのです。ネット上でのデジタルコンテンツだからといって全部が安くなるわけではありません。むしろ先ほどもいったように、新しいメディアの登場というのはコンテンツの価格を上げる絶好のチャンスなのです。違法コピーの存在がなければ、おそらくデジタルコンテンツの価格はむしろ上がった可能性が高いのです。”

“ソーシャルゲームではサーバー上にデータが保存されていて、端末でデータをコピーするだけではゲームが遊べないので、実質的に違法コピーが不可能です。こういうものだと高い価格設定でも顧客はお金を払うのです。違法コピーの存在が、やはりコンテンツの価格を下げているのです。また、同じようにサーバにデータを保存するタイプのサービスでMMOと呼ばれる大人数で同時にやるゲームがあるのですが、CDもDVDも高い正規品は誰も買わないことで有名な中国でも大ヒットしています。コンテンツにお金を払わないと一般に思われている中国市場でも、コピーができないMMOではきちんと、しかも所得水準を考えると日本よりも高いお金が払われていたりするのです。”

“音楽でも違法コピーが少ないために価格も高くなり、よく売れた事例を紹介しましょう。着うたと着うたフルです。ガラケーと呼ばれている携帯電話では、着うたや着うたフルの違法コピーが難しくなるような仕組みになっていました。結果、どうなったかというと、コンテンツの価格が高くても売れたのです。
違法コピーが容易に手に入るiTunesとスマートフォンの時代になって、やっぱりデジタル音楽の価格は下がったし、市場も縮小したのです。”

“ネット時代では手離れのよい楽なビジネスだと、プラットフォームが有利になりすぎてしまいコンテンツ側が不利なのです。大量複製して大量販売するだけのコンテンツ側にとって夢のような黄金時代は終わって、ネット時代には昔のように手離れの悪い地道な客商売が大切になるのです。”

“コンテンツではなくプラットフォームが顧客を持っている構造だと、コンテンツ側は自分の顧客にアクセスするためにプラットフォームの助けが必要です。ビジネスをしたければプラットフォームと取引するしかありませんので、レベニューシェアの比率がプラットフォーム側に有利に変更されても文句はいえません。また、プラットフォーム上で顧客に告知するために、プラットフォーム側はコンテンツ側に広告料金を請求することも可能です。レベニューシェアの比率にせよ、広告料金にせよ、基本的にはプラットフォーム側が圧倒的に有利な立場ですから、長期的にはコンテンツホルダーは最良のケースでも、やっていけるかどうかの採算ラインギリギリまでしか、収益の配分を受けられなくなるでしょう。したがってプラットフォームの協力なしで販売できる顧客の数を確保するということが、収益を上げるうえではとても大事な財産になるのです。”

“これまでのパッケージビジネスコンテンツのビジネスとはコピーする権利(複製権)を販売するモデルでした。複製権を販売するというモデルはネット時代には通用しないのです。複製権の販売もモデルの弱点は大きく二つあります。
ひとつは違法コピーの問題です。デジタル時代には違法コピーがあまりに容易ですので、複製権自体の価値が下がってしまうのです。ですから、複製権以外の価値をつけないと大きな利潤はえられません。
もうひとつの弱点は、プラットフォームの問題です。複製権をネットで販売するだけのモデルではプラットフォームに顧客情報を握られてしまうので、ほとんどの利益をプラットフォームに持っていかれてしまうのです。したがってCDやDVDや書籍などの従来のパッケージコンテンツ市場をたんにデジタル化して、流通をネットの巨大プラットフォームに置き換えただけのモデルには未来がないのです。”

“複製権でのビジネスがネット時代には向いていないとしたら、コンテンツビジネスの進化は以下のとおりになるでしょう。 
・コンテンツが動的なものに変化していく
・コピーしたコンテンツのデータではなく、コンテンツをコピーするサービスに対してお金を払うようになる。
・コンテンツそのものではなく、クリエイターとのコミュニケーションにお金を払うようになる。
・クリエイターがコミュニケーションができない場合には、編集者あるいはプロデューサーがファンとのコミュニケーションを代行するような分業が進む。そしてファンとのコミュニケーションを代行できることは。プロデューサーにとって必須能力となる。
・コンテンツ側は複数のプラットフォームをプロモーションを目的として使い分け、収益は自分たちでつくったファンクラブ型の独自プラットフォームであげるようになる。
・コンテンツの定額使い放題モデルにはパッケージ市場の崩壊とともに新しいコンテンツが集まらなくなり、サービス事業者は自分達でコンテンツをつくりはじめる。”

“定額の月額料金を支払えばすべてのコンテンツが無料で利用できるというサービスモデルがネット時代には主力になるとして注目されています。個別のコンテンツごとに課金するモデルは、もう古いというわけです。このような定額サービスは過渡的なもので、限界があると思っています。理由はシンプルで、すべてのコンテンツの制作費を賄うほど収入を分配することが難しいだろうからです。もし、できるだけ多くのコンテンツの制作費を賄えるように収入を分配すると、今度は一番人気のある作品が定額サービスに加わることが損になります。人気のある作品は、利益を全部自分たちで得ようとおそらくは独自のプラットフォームをつくるほうへシフトするでしょう。
こういう定額のサービスは、次第に人気コンテンツを集めることが難しくなります。現在はパッケージコンテンツの市場が別に存在していますから、独自にネット収益をあげる方法が見当たらないこともあり、やむをえず定額サービスにもコンテンツが集まっていますが、パッケージコンテンツの市場自体が崩壊しかかっていますので、今後は定額サービスから分配される売上だけで新規につくられるコンテンツの制作費はとても賄えないという現実に突き当たることになります。長期的にはこういう定額使い放題モデルはその売上を利用して、自分たち自身で差別化できるコンテンツをお金を払ってつくりだすようになっていくというのが僕の予想です。
実際に米国では定額で映像見放題サイトNerflixがそのような方向へ進んでいて、ネット初のドラマで大ヒット作品が生まれつつあるのです。
有料メルマガが成功したのはTwitterからの誘導がノウハウとして確立したからです。だとすると有料ブログも同じようにTwitterから誘導すれば成功するはずです。
結局は習慣の問題だけで、本質的にはきちんとプロモーション手段が存在していて、会員限定のコンテンツを提供する手段さえあれば、ある程度のユーザーはネットでもお金を払うのです。”

“「クローズド」から「オープン」への流れというのがグーグル以降、逆流していて、いまはむしろ「オープン」から「クローズド」へ時代が流れているということです。電話の歴史で電話番号をどうやって管理したかを考えると、イエローページのような公開されていてだれでも検索できる電話帳よりも、個人で管理して自分しか見られない電話帳のほうが最終的には大事になったということです。
インターネットの初期にはイエローページ的な、インターネットを網羅的に検索できるグーグルのようなサービスが便利で利用されました。しかし、インターネットが一般的になって人々の生活の中であたりまえの存在として浸透していくにしたがって、Facebookのようにインターネットの広大な世界の中でも自分の知人や身の回りの世界だけを整理してみせてくれる存在が重要になってくるのです。そして、自分の個人的な日記みたいなものをインターネットに公開する場合にも、グーグルで検索できるホームページやブログではなく、グーグルでは検索できない、自分の知っている人しか閲覧できないFacebookのような場所を選ぶ人が増えてくるのです。”

“電子書籍時代の出版市場はどの程度の大きさになるのか。電子書籍は流通コストと製造コストが必要ありません。この浮いた分のお金がどのように配分されるかですが、ひとつは出版社の利益となり、もうひとつはプラットフォームが受け取り、さらに値下げによって消費者に還元されます。つなり、これまで印刷会社や運送会社や書店などが得ていた収入を、出版社とプラットフォームと消費者の三者で分け合う構図になります。したがって紙の書籍のときと販売数量が変わらなければ、電子書籍になれば出版社および作家の収入は増えることになります。
販売数量が減る要因というのは電子書籍の時代になる過程で、書店の数が大きく減るだろうからです。紙の本が売れる拠点が減ることは、電子書籍がその分売れることを意味しません。書店がなくなると人間が書籍に出会う機会がその分減るからです。世の中での本の存在感が薄くなれば、その分、人間が消費する本の総量も減るでしょう。書店がなくなり、コンビニから雑誌コーナーが消えたら、その分、わざわざ電子書籍サイトを訪問することにはなりません。たんに本に巡り会う機会が減った、それだけなのです。”



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